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悲しい交通事故を繰り返さないためにできること
内閣府と警察庁による秋の全国交通安全運動が先月末に終わりました。近年の傾向として、自動車による事故率の減少に対して、歩行者や自転車の事故の多さが問題視されています。状況を受けて、警察庁および警視庁は10月末から自転車の危険運転や交通違反に、罰則強化として違反切符(赤切符)を科すと公知しました。違反者は信号無視(道交法7条)で2万円、歩道用道路における徐行違反(道交法8条)で5万円、また酒酔い運転(道交法65条)では5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。対象は14歳以上で、違反者は違反者講習を受講し、13歳未満はヘルメットの装着が義務化されます。
自転車の起源はレオナルド・ダビンチのスケッチとする説があり、実用化は1817年にドイツで発明されたドライジーネに端を発します。自動車の歴史は1769年にフランス陸軍が製作した砲車ですが、この車は最高時速わずか3キロにもかかわらず、パリ市内で塀に衝突する世界最初の自動車事故を起こしました。1946年~1996年の51年間における日本国内の交通事故死亡者は累計50万を超え、翌年の警察白書には後を絶たない交通死亡事故が「交通戦争」と綴られました。人類は便利な車を次々に改良してきた一方で、今も長きに車の事故と闘い続けているのです。
筒井康隆の近未来小説『無人警察』には、小型の電子頭脳を持つ巡査ロボットが登場します。速度検査機、アルコール摂取量探知機、脳波測定機を内蔵し、てんかんや心臓発作を起こす恐れのある者が運転していると、脳波測定機で運転者の脳波を検査するという機能を備えていました。この小説の一部は教科書にも収録され、ことに抗議した日本てんかん協会との論争の末、1993年に筒井氏は断筆宣言をしています。しかし技術の発展とともに、近年では発作性疾患を持病とする方や高齢者にも適した車の安全を可能にする安全工学技術が実用化されています。
電車が走行中に運転士が急変しても車両の暴走を防ぐ「デッドマン装置」など緊急列車停止装置(EB装置)の搭載義務も一例です。運転士がこの装置を支えていれば列車は走行し続けますが、支えの手や足が外れると直ちにブレーキがかかる仕組みです。2006年に改正制定された「鉄道に関する技術上の基準を定める省令第79条第3項」に基づいた措置です。
自動車の分野では2010年に、富士重工業がステレオカメラを用いた運転支援システム「EyeSight」を実用化しました。前方衝突の回避や、衝突による被害の軽減を目的に、自動ブレーキで車両を減速・停止させる機能や、先行する車の速度に応じた速さで自車を追従させる機能を備えています。もし先行する車が停止した場合には、装置の判断により車を自動的に停止させてくれます。当該分野をリードするボルボ社も赤外線レーザーを用いた追突警告機能付きの自動ブレーキシステム「シティ・セーフティ」を一早く開発しました。この装置は先方車に反応するだけではなく、身長80cm以上の子供の存在も感知可能で、子供の人身事故の未然回避を目的としています。今日ではレベルⅣの自動運転に日産や本田が乗り出しています。また最近ドライブレコーダーを搭載する車も増え、街中の交差点にも監視カメラが設置されています。
今日、車の事故防止と被害軽減装置は飛躍的に進化しました。しかし一方で、人的システムの整備には多くの課題がありそうです。私が交通事故の再発防止に有効だと思うのは、事故発生直後の現場検証を多角的にすることです。交通事故の現場に駆けつけるのは警察官と救急隊、事故後にレッカー車、後に保険会社の担当者ぐらいでしょう。しかし事故検証システムの精度を上げるには、自動車メーカー、道路工事会社、行政の専門家も駆けつけ、それぞれの観点から事故データを蓄積すべきです。現実的に難しくとも、せめて自動車メーカーはユーザーの事故現場を検証すべきかと思います。実際ドイツのメルセデスベンツ社は自社ユーザーの事故情報が入ると、いち早く現場に駆け付け、事故直後の車輛を確認するる専門チームを備えています。
都心においては、自転車宅配の急増や競技自転車の流行などコロナ禍ならではの理由もありますが、警視庁は今回の自転車交通違反に対する罰則強化を東京都を中心に行うそうです。少々厳しく感じる方もいるでしょうが、自転車が絡む死亡事故が減少しない現状は改善せねばなりません。歩行者の者(シャ)は人、自転車の車(シャ)は車であり、自転車のルールや交通法規は、自動車の車(シャ)に合わせて遵守するよう道交法には定められています。直に問われるのは自転車ユーザーに対するモラルと交通リテラシーです。さて、果たして自転車による事故が、法的厳罰化だけで減少するのでしょうか…自転車は事故のリスクが高い乗り物であり、ここはぜひ自転車メーカーにもデザインや速さだけではなく、エアバックや安全装置を兼ね備えた市販自転車の開発に企業の社会的使命として本気で参入してほしいものです。
【参考URL】
令和4年度 秋の全国交通安全運動 https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/suishin.html 警察庁HP
自転車は車のなかま 自転車はルールを守って安全運転 https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/info.html 警察庁HP
自転車の交通違反 取り締まり強化へ 警告から赤切符へ https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221014/k10013858121000.html NHK web (2022/10/14)
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