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Blog: Social impact issues2021.09.20

パリ五輪2024における国際テロ対策

 2021年9月11日、アメリカ史上最長のアフガニスタンにおける対テロ戦争は、米軍の撤退とともに首都カブールをタリバンが無血開城する「カブール陥落」により終結した。20年におよぶ戦闘の発端は、2001年9月11日火曜の朝、イスラム過激派組織アルカイダによるワールドトレードセンターやペンタゴンに対する4回の爆破テロである。日本ではイスラム過激派組織のテロ行為の象徴の様に報道される「アメリカ同時多発テロ事件」であるが、イスラム過激派が標的とする組織はけして米国だけではない。

 2002年10月、米と同盟国としてイラク戦争に参加したオーストラリアを標的に、インドネシア・バリ島ではオーストラリア人が集まるナイトクラブで爆破事件が起き、2年後の2004年にはインドネシアのオーストラリア大使館が爆破されている。ヨーロッパを標的とした事件としては、2004年3月11日、スペイン・マドリードで列車爆破テロの惨事が起きている。この事件では191人が死亡し、2000人以上もの市民が負傷している。続く2005年7月7日には英国・ロンドンで地下鉄とバスが同時に爆破され、56人が死亡している。さらに2010年に東ヨーロッパでは、ロシア連邦・チェチェン共和国のイスラム勢力がモスクワの地下鉄で連続自爆テロを行うとともに、2014年に開催された冬季ソチ五輪の爆破テロを予告した。

 そして2015年11月13日、フランス・パリで戦後最悪のテロ事件が勃発する。パリ市街と郊外のサン=ドニ地区の商業施設やパリ郊外の国立競技場スタッド・デ・フランスなどを含む8か所をターゲットにした「パリ連続テロ事件」である。この事件により少なくとも130人が死亡し、300人以上の市民が負傷している。パリでは2015年1月にもテロ事件が起きており軍隊を投入して警備を強化していたが、同年11月の同時テロは不特定多数を殺傷する組織的かつ計画的なテロ犯罪であり、フランス軍でさえも未然に防ぐには至らなかった。当時この事件についてオランド大統領は「シリアで計画、ベルギーで準備、フランスで実行された。同グループは、パリ北西部のビジネス街で、同国大手企業 の本社があるデファンス地区でテロを計画していた」と述べている。事件翌日となる11月14日、イスラム国の傘下組織「フランスのイスラム国」はインターネット上に犯行声明を出し「8人の戦士がパリを狙った。標的を厳密に選んだ」とスタジアムや劇場を列挙した。さらにこの攻撃は、シリアで続くイスラム国を対象としたフランス軍の空爆に対する報復テロであることを主張した。


 パリ連続テロ事件の流れを見るとイスラム国はメディア戦略に非常に長けている組織だと分かる。アルカイダもインターネットを活用したメディア戦略を積極的に活用していたが、今日のイスラム国はそれをさらに洗練・拡張させたといえる。ツイッター等のSNSを用いてアラビア語だけでなく、英語、仏語、トルコ語、ロシア語など非アラビア語の機関誌をオンライン発行するなど、インターネット網のグローバル化により組織をより拡充するための国際広報戦略を展開している。こうした国際テロ活動の背景には政治、宗教、そしてイデオロギーの問題が複雑に絡み合うことは理解されるが、同時にこの問題は、過激派イスラム組織の欧米先進諸国や西洋キリスト教国家に対する子どもや一般市民を巻き込んだ戦争行為に他ならない。国際的なテロ行為は法治国家間の平和と安全基盤を揺るがすものであり決して正当化されるものではない。2024年7月26日、パリは第33回の夏季オリンピックを控えている。そして国際社会は今現在もコロナ対策と同時にテロの脅威にさらされている。3年後に迫るパリ五輪を安全に励行するためには、フランス政府は軍と警察のみでなく、早期に国際テロに対する連携した多国間の枠組みを構築する必要がある。

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