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My Opinion2021.11.20

パリ連続テロから6年、SNSに落とし込まれる日本社会

 2015年11月13日、パリ市街とサン=ドニの商業施設で銃撃と爆発が同時多発的に発生したパリ連続テロから6年の歳月が流れた。この事件は2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件と共に、先進国がイスラム国の脅威を切に感じさせられた事件であった。また個人的には海外情報収集の難しさを痛感した事件でもあった。


 当時この事件を知ったのは、民法放送のテレビヘッダーに流れたテロップであった。ちょうど国際的にイスラム国の力が増していた時期のことである。詳細を知りたくてもテレビ番組は視聴率重視の構成を貫き通し、臨時ニュースがなかなか報道されない。新聞で号外が出されても直ぐ手元に届くわけではない。2011年の東日本大震災は国内の出来事であり速報性が要求されたが、アメリカ同時多発テロ後の臨時番組の多さと比べると、明らかにパリの情報が少ない。パリ連続テロ後の数日間に、日本とフランスの社会的な距離を実感した人も多かったのではないだろうか。日本人の関心事として太平洋の向こう側のアメリカとヨーロッパ・パリの違いは、距離的な要因だけでなかったと推測される。結局のところ個人的には、海外情報の速報性についてソーシャルネットワーキングサービス(SNS)から信頼ある情報としてロイター通信とフランス通信を探ったが、フランスでは緊急事態宣言が発令して国境が閉鎖されており、オバマ大統領がホワイトハウスでイスラム国に対する緊急会見を開いていたのを見て仰天した。この情報量の差では地上波優位の日本社会が、国際社会で打ち負かされても仕方がない。

 さらにはフランスでテロが起きていた同時刻、レバノンではフランスよりも更に大きな攻撃をテロ集団から受けていた。しかし中東の事件について欧米のSNSメディアで取り上げられた情報量は、パリの事件と比較すると非常に少ないものであった。SNS大手各社が欧米資本であるため、欧米的な見方、つまり欧米人の関心事がそのままグローバルスタンダードになってしまうことはいただけない。日本はアメリカからもヨーロッパからも中東からも遠い国である。地政学的に俯瞰して世界を見るべき極東の島国が欧米の情報源に頼っているとは、何とも情けない鳥観図ではないか。


 さて、日本政府によるテロ対策が本腰を上げたのは、パリ連続テロ事件から10日後の2015年11月23日に、国際テロ情報収集ユニットが動き出すことを安倍首相が表明してからである。しかし11月28日、すかさずイスラム国側から「日本も標的である」という声明がSNSに発し返した。この直後、テロに無防備な日本で開催された野球の国際大会で、通常より2倍の警備が配備されたことが回想される。ようやく翌月12月4日、政府に「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」が置かれた。これによりパリ同時多発テロを踏まえた国内テロ対策の強化が始まる。しかし振り返るにこの動きは、2016年5月に開催された日本主催の主要国首脳会議「伊勢志摩サミット」の警備対応を万全にしたい、当時の安倍首相と岸田文雄外相の意図が丸見えであった。

 後日、安倍首相はパリ事件について「テロには屈しない」という力強いメッセージを発している。しかしその真意は「日本人が人質になっても日本政府は救出の努力は一切しない」という意味であったことを、我々はけして忘れてはならない。ちょうど日本国内で同年1月15日にフリージャーナリストの後藤健二氏がシリアでイスラム国の戦闘員に無残に殺害される事件があったが、国内SNSは自己責任論で炎上し、日本政府は最後の最後までイスラム国には介入せず「テロには屈しない」と言う空疎な主張だけを発してしていたことが今も残念でならない。


 欧米社会を中心に構成されたSNSメディアは全世界の人々の目に晒され、今や私達の世界はSNSの中で世論が形成され落とし込まれる時代に突入した。世界的な事件の拡散により一般世論と思想が形成され、その考えや方向性を元に各国は政策の議論を重ねている。つまりSNSの動きが政策や法律にまで影響を与えているとしても過言ではない。こう考えると法案の是非は別として、パリ同時多発テロ事件後の流れによって、昨今問題になった「組織的犯罪処罰法改正案(テロ等準備罪法案)」、通称「共謀罪」が加速したことは、想像に難くない。パリの事件以降、日本国内のテロ対策は格段に向上し、コロナ禍の東京五輪は大きなテロに見舞われることなく幕を閉じた。今フランス・パリでは2024年の五輪開催に向けて、各国共同体制で国際テロ対策が進められている。日本社会でインターネット元年と称される1995年から四半世紀が過ぎた。人類は新たなイノベーションを生み出す度に、それを良くない方向に利用した歴史を繰り返している。社会的な安全を確保するセキュリティー対策とSNSによる世論形成の有り方が、今さらながら改めて私達の世代に問われている。

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