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Social Impact News2021.12.01

国名差別を睨んだコロナウイルスの命名法

 2020年から2021年春の時点まで、新型コロナウイルス変異株の命名法は、英国株やインド株など国名で記されていた。例えばこの呼称は、インフルエンザウイルスのA型株をAソ連型(H1N1)やA香港型(H3N2)、B型株を山形系統ないしビクトリア系統と称するのと同様であった。しかし新型コロナウイルスにおいては、遺伝子変異が起きた国名とウイルスが報告された国名が必ずしも一致するわけでない。またドナルド・トランプ前大統領が中国ウイルスと罵ったごとく、世界保健機構(WHO)が新しい変異ウイルスの株名に国家の名を冠することにより、名の付いた国に対する排他的、かつ差別的なイメージが国際社会に植え付けられることを懸念するほどに、国際的な風評被害があらわになった。

 新型コロナウイルスの株名に国名を使用することに伴う二次被害を危惧したWHOは、ウイルスに国名を付ける慣習がその国の負の効力に繋がることを避けるため、2021年5月31日に、株名をギリシア文字で、α(アルファ)株=英国株、β(ベータ)株=南アフリカ株、γ(ガンマ)株=ブラジル株、δ(デルタ)株=インド株…(途中省略)…そしてこの度、南アフリカから報告されたο(オミクロン)株と、文字順に表示する方法を採用する方針に切り替えた。

 直近で記憶に新しく世界的に流行した株はμ(ミュー)株であったが、本来の文字順で続くなら、次に変異が同定された株の名称はν(ニュー)と命名されるはずであった。しかしギリシア文字のν(ニュー)の発音が英語の”new”と混同しやすいとの理由から、ν(ニュー)の文字の採用は見送られた。順番でいくとその次の文字は、ξ(クサイ)であった。しかしWHOはξ(クサイ)の文字もまた別の理由により採用を回避している。その理由とは、ξ(クサイ)の発音が中国で多大な影響力を持つ某要人の名が”Xi”に相似するため、名前に対する差別を避けるための事前の配慮として、ξ(クサイ)の文字を採用しなかったと言われている。さらに次の文字順が今回のο(オミクロン)であるが、この度のο(オミクロン)株は、先の理由から2つのギリシア文字であるν(ニュー)とξ(クサイ)をスキップして採用されるに至った。

    さて次の変異株の名前予想であるが、また新たに新型コロナウイルスの変異株が報告された暁には、順番的にはギリシア文字のπ(パイ)株が候補となる。しかしこの命名は3.141592(以下省略)と続く円周率であるπと一致するため、再び一文字飛ばしてρ(ロー)株が採用される可能性が大方予想されている。

 WHOは一連の命名の理由について「νやξの発音と似た英単語や人名があり、そうした混乱を避けるため」と説明している。しかしこの度タイミングで命名法を変更した背景に、呼び名に対する国家間差別の助長を避ける願いがあることは否定できない。


 つまりまとめると新型コロナウイルス変異株の命名法変更には、ウイルスに付けられた国名に対する国際的な差別の助長を未然に避ける狙いがある。世界的に新型コロナウイルスのワクチンが普及した今日においても、かつての株とは違ったスパイク蛋白の異常が指摘されるオミクロン株に対しては、ワクチンの予防効果に関する医学的エビデンスが乏しい。しかし医学や公衆衛生が介入すべき根本的なターゲットは、ウイルスの名付けの仕方ではなく、迅速な変異の同定や治療法の確立、感染予防の解明、そして蔓延防止対策である。残念ではあるが世界では今でも陸続きの国か島国かを問わずに、国境という境界線でオミクロン株の流行する地域を排除する差別的な潮流が激しく、大きく問題視されている。

 ところでギリシア文字は全部で24種類しかない。そのため今後もし25番目の変異株が出現した際に、どの様な命名法が相応しいのかについて、既にWHOでは呼び名の検討が開始されている。1928年に国際天文学連合は88種類の星座を正式な星座として定めているが、一説によるとギリシア文字の次には、星座の名前が順にウイルスに付けられると言う。星座による命名が可能となれば、次なるウイルスの名前の候補として数の上では大分余裕が広がるだろう。しかしギリシア神話に準えて名を冠したウイルスへの差別が如何なる方向へ差し向けられるかについては、未来の地球市民全体のモラルの矛先次第としか謂うことができない。

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