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北朝鮮・中国・米国・日本が打ち上げるもの
空に打ち上げるのは夜空を彩る花火ばかりではない。世界は如何にして空や宇宙を制し、国際的優位性を確保するか躍起になっている。昨今、北朝鮮、中国、米国、そして日本が空や宇宙に打ち上げているものに注目してみる。
正月明け早々の2022年1月5日、突如日本に飛び込んできたのは、北朝鮮北部のチャガン道から日本海に向けて発射された「極超音速弾道ミサイル」であった。6日後の11日、さらに14日にも再び日本海に向けて弾道ミサイルが発射され、日本の排他的経済水域(EEZ)外側に落下している。北朝鮮は昨年1月から新型兵器開発のための国防5か年計画を施行しており、キム総書記は「戦争抑止力を一層強化するため」として、極超音速ミサイルの打ち上げ発射実験を繰り返している。
このニュースが日本国内で大きく報道される理由は極超音速ミサイルの早さで、韓国軍の分析ではマッハ10に匹敵する速度という。音速であるマッハ1(=約340m/s)の10倍速、つまり秒速3.4㎞の極超音速ミサイルが実用可能となった今、北朝鮮から発射されたミサイルが1200㎞先の日本に着弾するのに、僅か6分しかかからない。しかもミサイルは低空かつ変則軌道性能を有するため、もはや自衛隊のイージスアショアやパトリオットPAC-3では、十分なミサイル迎撃防衛が不可能である。さらにこの度の防衛省の発表は韓国軍の発表より数分間遅れたが、この数分が日本にとっては致命傷になりかねない。事実上2021年8月から日韓貿易摩擦で失効している日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の関係を、一刻も早く再開する必要があるのではないだろうか。もはやGSOMIAを日韓がいがみ合う政治的外交カードに利用している状況ではない。北朝鮮がかなり短期間に極超音速ミサイルを開発した背景には、既にマッハ5のミサイルを有している中国軍、そして世界最速マッハ27の極超音速ミサイルを有するロシア軍の協力があることは紛れもない事実であろう。
北朝鮮がミサイル打ち上げに莫大な予算をつぎ込む中、台湾有事が囁かれながらも他国との衝突を避け一見静かな姿勢を保っているのが、2月4日から20日に無観客の冬季五輪を予定する中国である。平和の祭典である五輪を前に、今の中国が国際社会に軍事力を誇示する行動はないというのが、国際社会の見立てである。パリ、ロンドン、ロサンゼルスはそれぞれ3回、アテネと東京が2回と、かつて五輪を複数回開催した都市はあるが、夏冬開催を行った都市はない。2008夏季に続き2022冬季を目前に、五輪史上初の夏冬大会を実現したい習近平国家主席の目論見は、自身3期目の続投が決まる夏に開催される中国共産党大会だ。
さて、北京冬季大会の成功の鍵はウインタースポーツに欠かせない雪質であるが、北緯39度に位置する2月の北京は必ずしも十分な積雪がない雪不足地域である。そのため北京郊外の開催予定地では日夜300台の人工造雪機(スノーマシーン)が稼働し、水と圧縮した空気を空高く打ち上げて「人工降雪」を行い冬会場の下地を整えている。ちなみに2008年の夏季北京五輪では何としても雨天の開会式を避けるため、軍の飛行機が上空から散布式に、そして地上からロケット打ち上げ式に、雨雲に向かってドライアイス、ヨウ化銀、珪藻岩などを調合した化学薬品を投じて人工的に雨を降らせる「人工降雨」作戦を行った。この雨はドバイやラスベガスにある巨大噴水から降り注ぐようなミストではなく、正真正銘の人工雨である。北京夏季五輪の素晴らしい開会式の晴天は、こうして人工的に作られたのだ。3000年の歴史を誇る北京を、夏場も冬場もオールラウンド・コンディションに天候ごと科学でコントロールしてしまうのが中国気象観測技術の底力だろう。
冬季五輪を控えて天候とオミクロン株の制御に翻弄される中国を横目に、早々に政府高官の不参加、つまり外交的ボイコットを表明した米国のNASA(アメリカ航空宇宙局)は、今後10年で展望ある3つの宇宙開発計画を予定している。
先ず、100億ドルを投じて2021年12月25日にフランス領ギアナから打ち上げたのが、世界最大かつ最も強力な倍率を誇る「ジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡」である。重さ6.3トンの夢の望遠鏡は、遥か137億年前、つまりビッグバンからわずか1億年以内の時間を観測可能な現代版タイムマシンである。この望遠鏡でNASAは、宇宙で最初の銀河や星、そして生命の痕跡が探索されることを期待している。この6月には宇宙望遠鏡のスキャンが開まり、10年間の稼働を計画している。
話変わって2つ目。6600万年前にチクシュルーブ衝突体がメキシコ湾に衝突して地球上の恐竜が絶滅しているが、仮に同様の事態が起きたら人類滅亡の危機も避けられない。NASAはこの懸念を単なる杞憂でなく、現実的な「惑星防衛」問題と認識している。 事実、2013年にはロシア・チェリャビンスク州に直径17mの隕石が落下したが、その衝撃波(ソニックブーム)は180㎞先の地点で観測された。周辺地域は5000棟以上の建物でガラスが割れ、1500人余りが負傷し、約30億円の被害が出ている。 2021年11月24日、小惑星に衝突させて軌道変更を行う実験(キネティック・インパクタ)のため打ち上げられた探査機DARTは、今も目標とする二重小惑星ディディモスに向けて宇宙空間を飛行中で、2022年9月末に衝突する予定である。長い天体史の中で、地球防衛を目的に天体の軌道を変えるアルマゲドン式のSFミッションは、もちろん人類初の試みである。
3つ目は本格的な宇宙観光と月移住を目指し、2024年に人類を月面に送り込みゲートウェイを建設する「アルテミス」計画である。地球を飛び立つ宇宙船内の映像がリアルタイムに送信される昨今、個人的には宇宙飛行士が持ち込むぬいぐるみが気になる。2020年6月に打ち上げられたスペースX・クルードラゴンのベンケン飛行士が持ち込んだのは、アパトサウルスの「トレマー」であった。11月に野口聡一飛行士らはスターウォーズの「ベビーヨーダ」と宇宙を旅している。2022年2月にはアルテミス計画の第1弾探査機の打ち上げが予定されているが、探査機は無人である代わりにオレンジ色の宇宙服を着た「スヌーピー」が乗り組み員を務めるという。宇宙船の中を無重力状態で漂うスヌーピーの雄姿と羽のような耳が今からとても楽しみである。
最後は日本の話題だが、内閣府も宇宙利用大国を目指し、宇宙基本法に基づいた宇宙開発戦略本部を設置している。宇宙フロンティア事業としてJAXA(宇宙航空研究開発機構)は、2030年迄に米のアルテミス計画に合流して、日本人宇宙飛行士を月に送り込む計画である。これを受けJAXAは現在、10年先を先導する新たな宇宙飛行士候補生を広く公募している。対岸の月がより私達の身近になる日は近い。
さらにロマン溢れる日本発の計画といえば、株式会社ALEの岡島礼奈氏が手掛ける「人工流れ星」プロジェクトだろう(https://star-ale.com/)。宇宙のチリが大気圏に突入することで流れ星が観測されるのなら、直径1cm大の金属球を積み込んだ小型人工衛星を宇宙空間に打ち上げ、この「流れ星の素」を宇宙空間から大気圏に大量放出することで人工流星群を創り出す計画である。ALEによると技術的には既に完成段階にあり、2023年の初回トライアルに向けてファンディングを募っているという。日本の夏の夜空の風物詩として、大きな尺玉の打ち上げ花火と無数の流星群を同時に鑑賞できる未来は、すぐそこまで来ているようだ。
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