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Blog: Social impact issues2022.03.20

被爆だけでなく化学兵器被害国の日本が成すべき役割とは

 2022年3月11日に続き、18日に開かれた国連安全保障理事会では、ロシアが侵攻を進めるウクライナに対して、化学兵器・生物兵器などのバイオ兵器使用に関する議論が衝突した。ロシアのネベンジャ国連大使は、「米がウクライナで生物兵器を研究してる文書がある」と物的証拠を提示したが、国連の場でロシアがあえて虚言を行い都合の良い部分だけ国営放送に放映する情報工作について、多くの参加国から国連会議の悪用と強い批判の声が上がった。


 世界が不安視するウクライナとロシアの戦争であるが、ウクライナが市民兵を動員して世界に助けを求める一方で、米や北大西洋条約機構 (NATO) は、一貫して軍隊を発動させることなく、ロシアとベラルーシへ経済制裁を強めている。SNSでは西側諸国が直接軍隊を派遣しない事実を弱腰と見る短絡的な意見が多いが、ロシア6,255発、米が5,550発も保有する核爆弾を、仮に1発でも打ち込んだら、この世界はどうなるだろうか。

 これまでもプーチンは核兵器の使用を臭わせる発言でウクライナを威嚇してきた。しかしいくら戦争が長引きジレンマが生じても、急にロシアが核を放り込むとは考えにくい。1945年8月、ヒロシマとナガサキで20万の命が奪われて以降、核兵器拡散防止条約が批准されながらも世界には約13,000発の核が眠っている。もしロシアがウクライナに核を投下したら、一瞬にして数十から数百万人のウクライナ国民の命が飛ばされ、即ロシアの勝利とウクライナの敗戦は決定する。しかし引き続き西側諸国が応戦し互いに核戦争が始まると、奪われる命が膨れ上がるだけでなく、地球全体を放射能が覆い大気汚染の影響で数か月のうちに数億単位の人間が死亡する。さらに恐ろしいのは、放射能濃度の高い大気からの降雨で地球の全ての河川や海水そして土壌が汚染され、生き物は放射能汚染された水や食物を摂取するしかなくなり、人や多くの動物が二次癌を発症してしまう。やがて地球上の動植物が数年以内に死滅するため、人類は食料難に陥り、早かれ遅かれ滅亡を避けられない。

 当然、ロシアも核のシナリオを研究し尽くしており、いくら戦況が傾いても即座に核に手を伸ばすことが出来ない。つまりロシアは一発でウクライナを全壊させる破壊力の核を保持しながら、封を切ることが出来ないのだ。そのため、持て余す程の核を持ちながらも、ウクライナ市民兵の火炎瓶と機関銃を相手にロシア軍が戦車で抵抗する…そんな第二次世界大戦を延長したマニュアルの戦いが続いているのだ。注意すべきは起きている戦いはマニュアルでも、外交的経済制裁や、ネットハッキングを含むSNSによる情報公開は、強力兵器に匹敵する威力を持つことだ。だからこそ西側諸国は直接交戦より経済制裁で攻撃し、米はロシア軍の機密情報を意図的に世界のメディアに公開している。そして対するロシアも国連会議を巧みに利用し、ロシア国内の情報工作に尽力しているのだ。


 さて、戦況が長引くにつれ、核を用いることが出来ないロシアが次に出す可能性を秘める兵器がバイオだ。だからこそ米国は、2回の国連会議で、ロシア軍の化学兵器の使用に対して抑止的圧力をかけたのである。化学兵器は、あるエリアの人のみを神経中毒に陥れる攻撃であり、西側諸国が供与している防弾チョッキや鉄帽は全く役に立たない。折しも現地ウクライナでは化学兵器に耐えうるガスマスクが圧倒的に不足している。

 果たしてプーチンは、核の代用として化学兵器の使用に踏み切るだろうか。そしてこの状況において、日本政府が世界に起こすべき行動とは何か。岸田首相は先週インドのモディ首相と会談し「中国がロシアに対して経済ならびに兵器の供与を行うことに異を唱えた」と報じられているが、もしロシアが核や化学兵器を用いた場合、日本政府がどの様な対抗措置をとるのか具体的な発表がない。広島出身の岸田首相は、長年の選挙活動と公約において、唯一の戦争被爆国である日本が発して世界から核を無くすことを最大目標に掲げていたはずである。世界はこの戦争が核戦争に進展することを非常に恐れている。是非このタイミングで、ロシアの核兵器使用に対して大きく釘をさすメッセージを発表してほしい。

 さらに風化させてならないのは、日本は世界でも類をみない、非戦争状態において甚大な化学兵器被害が起きた国であることだ。1989年の坂本堤弁護士一家殺害事件に引き続き、1994年に長野県松本市、そして1995年3月20日に東京・霞が関界隈で起きた地下鉄サリン事件である。大都市で起きた化学兵器による無差別同時多発テロでは、その神経ガスにより14人が死亡し、約5,000人が被害を被った。一連のオウム真理教が引き起こした事件から、今日でちょうど27年の月日が流れた。ウクライナではロシア軍の生物・化学兵器の使用に対する警戒態勢が、日を追うごとに強まっている。長引くこの戦況を変えるためにも、今こそ、日本からプーチンに化学兵器の使用を禁ずる強い警告と対抗措置を発していただきたい。





「ウクライナは生物兵器を開発している」ロシアの主張をファクトチェック BBC (15/Mar/2022)

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-60733307

地下鉄サリン事件から27年 現場で遺族や被害者が追悼 NHK web (20/Mar/2022)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220320/k10013542511000.html

岸田首相 インドカンボジア訪問 NHK web (21/Mar/2022)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220321/k10013543381000.html

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