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Blog: Social impact issues2022.05.13

世界が慄く北朝鮮が試射した宇宙戦争レベルの異次元ICBM

 ロシアとウクライナの戦争の影に隠れ、3月24日に試射された北朝鮮の新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)火星17の凄まじい攻撃力について、日本のメディアではほとんど報じられなかった。日本で報じられたのは、サングラスにレザージャケットを着た金正恩総書記が「巨大なミサイルの前をスローモーションで歩く」という朝鮮国営テレビが作成したハリウッドばりの演出映像であった。ちょうどこの度の火星17の1週前の3月16日に平壌で同型の試射実験が失敗に終わったが、北朝鮮当局は国民に失敗を悟られぬよう火星15の虚偽映像を堂々と放映している。この映像の記憶も被り、日本のメディアが繰り返し放映したのが、「北が17の失敗をごまかした虚偽報道」と「金氏の過剰すぎる映像演出」であった。これでは火星17の破壊力、つまり日本国にとって脅威となる不都合な隣国の軍事的脅威は、全くもって日本国民に伝わらない。


 火星17に即座に遺憾を示したのは米国であった。米国は長年北朝鮮の核開発に対する自制を期待する立場から沈黙を守ってきたが、この度の北の暴挙には過去最高の制裁を求めると国連に要望した。国連安全保障理事会も2006年以降、度々北朝鮮に忠告と制裁を強化したが、北朝鮮はこの訴えを受け入れなかった。加えて、2021年秋に中国とロシアが国連安保理に対し、北朝鮮への経済制裁の解除を求めていた。今回の北の愚行は、ロシアとウクライナの混乱の最中を狙い実施されたのだ。当然、国連はさらに厳しい制裁を北に求める立場にあり、北朝鮮制裁の専門家パネルを2023年4月30日まで事実調査する方針を表したが、今の国連にはそんな権威も余裕も感じられない。


 さて今回の17号の最大の問題は、核搭載が可能なだけではなく、世界最長の飛行距離能力を誇る異次元のICBMである点だ。最近の北のミサイルは、移動列車や潜水艦など予測不能な場所から日本海や東シナ海に向けて極超音速ミサイルを発射していた。迎撃側としては、僅か10分以内に本土に着弾する恐れのあるミサイルを如何に迅速にレーダ探知し迎撃システムで撃ち落とすか、その方法を議論していた。しかし今回のICBMの飛行能力は、世界中の予想を遥かに上回る次元であった。日本のメディアの多くは日本海の排他的経済水域(EZZ)の外1,100km地点に落下したと報じているが、問題はその最高高度と飛行時間にある。実はこのミサイルの最高高度は6,248kmにまで達し、67分間も飛行し、1,090kmの飛距離を移動して日本のEEZ外に落下していたのである。

 ICBMを上空6,000㎞の高度に1時間以上にわたり 、所謂ロフテット軌道で打ち上げられたミサイル射程の放物線軌道に、なぜ世界が恐れ慄いたのか。それは次の例えと比較すれば明白である。国際線旅客機の飛行高度は通常上空12km、国際航空連盟は高度100kmより上空を宇宙と定義、国際宇宙ステーション(ISS)の巡回高度が上空約400km、地球観測衛星が上空500kmの高度である。つまり火星17はISSの遥か15倍も先の宇宙空間にまで到達し、その高度から落下時に備える莫大な落下エネルギーを質量保存の法則に則って日本海に落下させたのである。もしこのミサイルをより低い斜方投射のcosθでニュートンの第2法則に従い試射したなら、その射程距離は15,000kmを超えるレベルに相当する。つまり北朝鮮本土から米西海岸はおろか東海岸を含む全米全ての都市を十分狙えるICBMということになる。しかも平壌から米本土にICBMが到達するまでの時間は、シュミレーションでは僅か40分と計算されたのだ。つまり平壌から一旦ICBMが発射されてしまえば、その軌道は遥か彼方の宇宙空間を貫き放物線を描いて、既存の核兵器以上の巨大隕石級エネルギーの核爆弾が米本土に落下することになる。これはいわば北朝鮮が、けして踏み入れてはならない宇宙戦争レベルの異次元ICBMを開発してしまった悪魔の兵器としか言いようがない。

 宇宙空間から米本土の何処に落とされるか分からない北の異次元ICBMを地上から迎撃するミサイル防衛システムは、世界最強を誇る米軍といえども持ち合わせていない。となると当然、米軍がアメリカ本土を守るためには、日本国内の米軍基地や日本近海に核兵器や迎撃システムを備える空母を配置して、北からICBMが発射される予兆を察知し、出来る限り早期に撃ち落とす以外に対抗策は現時点で存在しないのである。



 この問題、核兵器を保有しない韓国での深刻さは尋常ではない。5月10日、韓国では新大統領に伊錫悦(ユン・ソンニュル)氏が就任したが、伊氏はソウルの就任式で北朝鮮に対し、「実質的な非核化」を求め「進展があれば経済支援」を行う考えを示した。融和路線の前政権とは180度の政策転換であり、当然北朝鮮から相当強い反発があると予想される。

 では同じく核を持たない日本として、既に箱が明いたこの問題をどのように封じ込めるべきか。核兵器や戦争の問題が生じると直ぐ、「戦争は国際法違反である」として議論をさける風潮がこの国にはある。しかし、現在の国際法において核兵器使用や威嚇の合法性について論ずるに、核兵器の使用を禁止する条約は軍事大国および核保有国同士で締結されていないのが現状である。核兵器の使用が国際慣習法 (International customary law) 的に合法か否かについては、合法説と違法説がある。1963年の東京地裁判決は、米国による核兵器使用は巨大な破壊力から無防守都市への無差別爆撃であり、不必要な苦痛を与える非人道的な害的手段として禁止されると判示した。しかし、国際司法裁判所は、核兵器使用の合法性勧告的意見の主文中で、核兵器による威嚇または核兵器の使用は、人道法の原則・規則に一般的に違反するとしながらも、国家の存亡自体がかかった自衛の極端な事情においての使用は合法とも違法とも結論できないとしている。つまり国際的に試されているのは、「北朝鮮と隣国の日本が、北のICBM問題をどう考えているのか」である。岸田総理はこの件について直後に「許されない暴挙である」とコメントを発表したが、残念なことにこのICBM問題も喉元過ぎれば、僅か数週後には議論にさえ上がらなくなった。事実、韓国軍の筋によると北朝鮮は5月12日、さらに3発のICBM弾道ミサイルを日本海に向けて発射している。しかし日本のメディアでは、この事実すらほとんど報道されていない。

 一体、この国の平和はこれから将来、誰がどうやって守っていくのだろうか…





【参考URL】

北朝鮮から発射された弾道ミサイルが日本に飛来する可能性がある場合における全国瞬時情報システム(Jアラート)による情報伝達について.房国民保護ポータルサイト.内閣官 https://www.kokuminhogo.go.jp/kokuminaction/jalert.html

北朝鮮による核・弾道ミサイル開発について.防衛省(令和4年1月)

https://www.mod.go.jp/j/approach/surround/pdf/dprk_bm.pdf

北朝鮮、日本海に向け弾道ミサイル発射—韓国軍.AFP通信 (2020/05/12) https://www.afpbb.com/articles/-/3404578

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