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Blog: Social impact issues2022.06.03

人とペットが共生する社会ー動物愛護法改正と動物の権利

 2019年6月に環境省所轄の「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律」 いわゆる改正動物愛護法が、今月6月1日より施行された。かねてから日本の動物に対する法整備と運用基準は、世界標準でみると大きな問題を抱えていた。ペットや家畜動物に供与する飼育環境の法整備を含めて、日本で動物のストレスや苦痛を最小限に抑えることを目的とする動物福祉(アニマルウェルフェア)という用語が広まった背景にも、国際獣疫事務局(OIE)の勧告に農林水産省が従った経緯がある。

 この度の法改正により、ペットショップには生後56日を経ない犬猫の販売を禁止する8週齢規制が義務化される。またペットである犬猫には全てマイクロチップの装着が義務付けられ、飼い主と共に登録が必須となる。さらに動物虐待や殺傷が厳罰化され、5年以下の懲役または500万円以下の罰金刑が科せられる。個人的には生後まもない幼若犬が、母犬やきょうだいから引き離されペットショップのゲージに入れられた姿が可哀そうでならなかった。本法の細則については、ぜひ以下のサイトを参照されたい。https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/outline.html


 国家が違えば国民に課せられる法的義務が異なるように、国が違えば動物の権利もペットに対する考え方も異なる。日本国内には約4万人の獣医師がおり、街中でアニマルクリニックやペットショップの看板を眼にする機会も多い。癒しや新しい体験を売りにするアニマルカフェが話題になり、動物をモチーフにしたキャラクターやテレビCMも多く、ペットグッズ市場の成長率は著しい。「ペットは家族の一員である」と考える愛犬家や愛猫家も多く、中には飼い主より高いエンゲル係数の食生活をしているペットもいる。そう考えると一見、日本で暮らすペットの生活の質 (ペットQOL) が、他の先進国より必ずしも低いとは思えない側面もある。

 国際的に禁止が叫ばれる中、全個体数の減少が著しいにもかかわらず未だに調査名目で捕鯨をしている日本の愚行が非難されるのは容易に理解できる。しかし何故、日本のペットが世界から問題視され、政府が繰り返し法改正を実施しているのだろうか。以下に動物の権利について先進的な政策を実施しているフランスの動物愛護法の現状を紹介しながら、ぜひ考えてみたい。


 現在のフランスの動物愛護法は、2021年11月18日に改正・成立している。フランスでも人と動物が共に暮らす社会が通常で、最近のデータでは国民の2人に1人が何かしらのペットを飼っており、その数は日本を遥かに上回る。しかしかつてフランスでは毎年10万匹のペットが捨てられていた時代もあった。当時のフランスは欧州諸国から「玩具動物を捨てる欧州チャンピオン」とみなされ批判されていた。フランス政府は過去の教訓を糧に、年月をかけて主導的に動物の権利・保護政策を社会改革として実践してきた。この度、日本の動物愛護法でも「犬や猫の販売」や「動物虐待の厳罰化」の改正が盛り込まれたが、これはフランスの法制度を模倣したものである。

 フランスの汚名にも関わり制定された同国の動物愛護法の展望にはさらに続きがある。フランスでは、2024年以降は一般のペットショップにおいて犬や猫の販売が禁じられる予定である。もし個人がペットとの生活を望む場合は、認可を受けたブリーダーから直接購入するか、動物保護団体からの譲渡などに限定されるという。また、ペットを虐待死させた場合、最大で禁錮5年ないし7万5千ユーロ (約980万円)の罰金が科せられることも定められた。さらにフランスに800以上あるとされる国内移動サーカス団に対しては、法律の施行から7年以内に全ての動物を手放すことが義務づけられ、動物によるサーカス公演までもが禁じられることになった。

 ペットを虐待死させた場合に刑が科せられることは日本においても理解できるが、日本にも伝統文化として各地に猿廻し団がある。移動サーカス団にまで動物を手放す要求をする法が議会で可決された点においては、フランスにおける同法の良し悪しとは別としても法的新規性があるのではないだろうか。また生後間もない犬猫をブリーダーが売買するペットオークションに関して、日本には未だ歯止めがなく、フランスと比較するとスタート地点にも立っていない。動物の権利に対する先進国であるフランスの基準で見返すと、日本の動物愛護法は確かに遅れていると言わざるを得ない。


 しかし動物先進国のフランスにも、今後改善すべき幾つかの動物に対する問題が残されている。欧州諸国ではイギリスをはじめ歴史的に競走馬レースが盛んであり、フランスにおいても2021年にはパリロンシャン、サンクルー、ドーヴィル、シャンティなど世界G1レベルの競馬レースが年に6回も開催されている。馬舎の生活環境の整備や、不治の病気や怪我に見舞われた際の動物の安楽死については基準があるものの、世界的に注目され国に大きな金銭的利潤をもたらすG1レースに対しては、課題が残されている。またフランスの法規制で動物に様々な芸を仕込むサーカス団は規制対象とされたが、現存の動物園や水族館を閉鎖するまでの条項はない。ペットショップに対する打開策かもしれないが、動物愛護法の名の下に犬猫の販売は禁止されたが、ウサギやハムスターなど犬猫以外の動物販売は可能といった矛盾点も指摘されている。


 かく言う自分自身も動物実験を行う研究施設で働いており、また動物を愛玩動物として眺めるという意味でも動物園や水族館を訪れることが好きである。さらにそもそも食に関して見返すなら、現代人は誰しも食肉加工に依存しないことには日々の生活を維持することができない。しかし現状を冷静に俯瞰したとき、人間が動物の生存の権利を奪っていることは言うまでもない。この問題が多岐にわたっていることを社会的に啓蒙する意味でも、この度の法改正は人類が持続的に議論するべき共通の課題といえるだろう。


 


【参考URL・文献】

朝日新聞デジタル「ペットショップで犬や猫の販売禁止 フランスで動物愛護法が成立」https://www.asahi.com/articles/ASPCM5JTGPCMUHBI00V.html 

JRA日本中央競馬会 海外の主要レース結果一覧 https://www.jra.go.jp/keiba/overseas/result/ 

朝日新聞朝刊 「パリ ペット店「やめるしか」」 (2022/01/18)

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